地獄のジャンル論

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この記事は、毎週金曜日、団員の中野がお送りするコラムです。 なお、このコラムは個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。

今週のアップデート情報

プリラジ!

宅録のための機材を新調した指揮者の迎氏が、機材やリモプリ、楽器、敦盛他ゲームについて語る。

リモプリ!!

インプリメーレのメンバーが外に出られないのでリモートで収録している企画。今週はぎーさん(Pf.)と迎氏(Tp.)のセッションで『オンブラ・マイ・フ』、カズマサさん(Mand.)による『家で踊ろう』の二本がありました。


地獄のジャンル論

言葉の豊かさは思考の豊かさに直結する

フェルディナン・ド・ソシュール

先日、本コラムを始めてから一年が経った。学生時代には皆勤賞から無限遠点にあった存在が、こうして一回も欠かさず毎週投稿できたことに、自分自身でも正直、驚いている。結局、物事が続くかどうかというのは自発的にやっているかどうかなのかもしれない、と思う昨今。

この機会に過去の投稿を拾い読みしたりしてみると、毎週(偏っているにせよ)アーティストや楽曲を紹介しているものの、ジャンルについては「ジャンルについてはやりはじめると地獄なので」ということを言っていた。地獄の蓋を開けてみたいという欲求には抗いがたく、今回はジャンルについて書こうと思う。

ジャンルが必要な事情

我々は言葉によって概念を捉え、分断することで、世界を理解している。その人の知りえない言葉の指し示す概念は、その人の宇宙には存在しえない。そして、人同士が会話をするとき共通の言語を使うことで対象物を特定し、整合性を取っている。らしい。詳しくは言語学とか学んでください。個人的な理解だと、『全て』を、どのくらいの粒度で、どうやって言葉で切り取り、どう表すのか、というのが各々の言語ひいては文化の違いなんじゃないかなぁ、という感じである。名前というのは切り分けられた世界だ。

ジャンルも似たようなものだ。ある一定の集団や属性を指し示すために用いられるタグ、あるいはその分野に興味のある人がより便利に分類するためのツール。特に興味のない人にとっては、ハウスもテクノも『音楽』だろうし、スペースオペラもサイバーパンクも『SF』だろうし、解析学も統計学も幾何学も『数学』だろう。そして、「そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!」「違うのだ!!」という悲しい応酬が始まる。

数多のコンテンツがある中、ジャンルという道しるべが無ければ人は何を選べばよいか分からず、うまく分類もできず、途方に暮れ、日が暮れ、年が暮れる。そして年齢を重ね…良作に触れぬまま死ぬ。だからジャンルは必要だ。

ジャンル分けの良し悪し

とはいえ、ジャンル分けが論争の種になるのには枚挙に暇がない。制作者本人が「これは○○です!」と言ってしまえば「まぁそうなのかな」と決着するのだけれど、そもそも論が始まってジャンルの定義の話になってしまった時にうまく話がまとまったことが無い。「概念って個々人によって微妙に差があるし、そこは個人差を許容しろよ」というのと、「重ね合わせの状態を許容しろよ、単一のラベルを貼るということの方が難しいだろ、分類学じゃあるまいし」という思いしかない。

あるコンテンツにおいて、ジャンルが定められるとどうしても認識にバイアスがかかってしまう。たとえば吹奏楽においては色々な種類の音楽をカバーするので顕著な傾向にあるけれども、「この曲はジャズっぽくやらないと」、「これはクラシックっぽく演奏しないと」、さらに言えば「吹奏楽だしこういうことやらなきゃ」みたいな。そういうことは考えたりしてしまう。どうしてもしてしまう。それが、奏者や団体自体のオリジナリティとか個性とか、そういうものを失う原因になってしまうのかもしれない。

そんなこんなをしているうちに、そのコンテンツそのものがどうなのか、そのコンテンツが持っている根源的なものは何なのか、という観点が失われてしまう、ような気がしている。クラシックの楽曲を聴くとき、古典派とかロマン派とか印象派とか国民楽派とか関係無くない?別に批評家じゃあるまいし。

ただ、それまで各々のジャンルがあると理解がしやすいのと、蓄積されてきたハウツーというのはクオリティを上げるうえで有用なので、一概に悪いことだとも言えない。自動車事故による死傷者はいるけれども、それ以上に便利なのでクルマ社会から脱却することはできない、みたいな構造な気がする。

川のせせらぎ

音楽、というジャンルについてもちょっと考えておこうと思う。砂山のパラドクスみたいな話だけれど、ある楽曲からどんどん音を引いていったとき、いったいどこまでが音楽と言えるのだろうか。リズム・メロディー・ハーモニーとかそういう話は置いておいて、まぁ、多少和声が欠けたところで音楽は音楽だろう。ベースラインだけでも音楽と言える。一つの三角波が一定間隔で鳴っているだけでも音楽という過激派もいるだろう。

では無音になったら?そうすると今度は、自分の脈動、聴こえてくる子供の声、鳩のリズミカルな鳴き声、歩行者用信号機の音とかが耳に入ってくるかもしれず、「音によって何かが想起されれば音楽だ」みたいな原理主義者はそれすら音楽というかもしれない。そうなってくると、そこにあるのは感覚で、音楽は我々がそう名付けただけの実在しない概念なのでは?と考えざるをえない。いわんやジャンルをば、である。

空気の振動を感じる・あるいは感じさせ、何らかの感情を呼び起こすもの音楽と呼ぶのなら、川のせせらぎの音というのは(個人差はあるにせよ)かなりエモい音楽ということになる。演奏者は言ってしまえば人工的に音を整えて感情の揺さぶりを仕掛けているわけで、こういった音とも対抗できる音を作っていかねぇとなぁ…と思う今日この頃です。

今週のリコメンド

RECOMMEND_01 ジョン・ケージ/4分33秒

RECOMMEND_02 真木蛍五/可愛いだけじゃない式守さん

家に引きこもっているけれど、どうも最近、活字を追いかける気になれない。老眼ではない。積みっぱなしの『三体』とか『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』とか『IEとマネジメント』とか『音と記号』を横目に、気づいたらマンガばっかり読んでいた。

連載中のマンガだと『可愛いだけじゃない式守さん』が結構好きだ。超不幸体質の和泉くんにしょっちゅう降りかかる不幸から、彼女であるところの可愛いだけじゃない式守さんが守るという全年齢対応イチャラブコメディで、お花畑状態で読めるから精神の安定を図るのに良い。新刊の4巻から登場した新キャラクターの狼谷さん関連の話がすげぇ良くてさ… 良いんだよ… 分かるかボーイ…

webマンガなので、マガポケで最初と最近の何話かは無料で読めます。最近はこういうの多くていいさね。



余談1: ジャンル論争、超面倒くさく、いつも「こいつ…脳に直接…!」みたいなことができたらなぁって思うので、人類の平和のためにも脳科学・電脳化技術の進歩が望まれます。

余談2: 『僕の心のヤバいやつ』を紹介しようかと思ったけれど、真にヤバい作品であることは公然の事実であるので紹介するには値せずと判断した。 3巻が出たらダメ押し的にやろう。

余談3: 大学時代の友人との関係性のメンテナンスをしようと思い、このご時世なのでオンライン麻雀をした。中身が無さ過ぎて真空状態になった無駄話をしながら打つ麻雀は最高だった。インプリメーレでも適当にメンツそろえてしょうもない話をしながら打ちたい。

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