南海泡沫事件と人の伝統芸

天体の動きなら計算できるが、人々の狂気までは計算できなかった

アイザック・ニュートン
英・王立造幣局長官

先日、保険について気になることがあったので色々調べていた。やはり保険といえば、ロイズ(・オブ・ロンドン)を無くして語ることはできず、この団体の歴史についても調べることとなり、その成立の裏にはかつてのイギリスの投機ブーム、「南海泡沫事件」があることを知る。そして、人間にはどうしようもない伝統芸というか、変えられないものがあるのでは無いかという思いにたどりついた。

先週のコラムでは京都の伝統と革新について触れたが、今回は人間のどうしようもない伝統芸というものについて考えてみたいと思う。師走であり、皆慌ただしく、ご多分に漏れず俺もバタバタしているので、コンパクト版でお送りします。

人間のどうしようもない伝統芸

人間のどうしようもない伝統芸、というのはある。隣人との権利問題、焚書、嫁姑問題、民族紛争、宗教対立、戦争、文明の興亡、格差、奴隷経済、エトセトラエトセトラ。その中でも、人類がしょっちゅうやらかしているのがバブル経済。バブルと言えば、1990年前後の日本のバブル経済を指すことが多い。だが、世界を見渡してみれば、オランダのチューリップに始まり、電脳空間のBitcoinに至るまで、『〇〇バブル』を繰り返しているようだ。

我々はさも当たり前のようにバブルと言っているが、その元となったのが、冒頭に触れた『南海泡沫事件』である。詳細はこちらのサイトが優しく分かりやすく解説してくれているので、詳しい説明は省こう。要するに、1719年~1720年にかけて南海会社の株という永久機関っぽく見えるなにかが引き起こした、国家から低所得者層に至るまでのイギリス中の国民を巻き込んだ大フィーバーだ。当然、株価の高騰は泡のように弾け飛び、大混乱が巻き起こされた。

この事件、巻き込まれたり事態の解決にあたった人々が、「(当然だけど)彼らも当時を生きていたのだなぁ」と思わせられるメンツで心に響く。最終的に2万ポンド(現在の1億円相当)の大損をこいたのが、かの有名なアイザック・ニュートンだ(そして冒頭の名言を残す)。バロック音楽の天才、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルも500ポンド相当の損をしているとかどうとか。1721年に首相に就任したロバート=ウォルポールは、この事件の解決にあたって王室や国民からの信頼を得て長期政権を樹立、最終的に責任内閣制(議院内閣制)を成立させることになる。また、公認会計士制度とか会計監査制度っていうのも、この事件の反省から生まれている。

喉元過ぎれば熱さを忘れる

南海泡沫事件の100年前にはオランダでチューリップ・バブルが発生しているし、この事件の同時期にはミシシッピ事件も起きている。そのたびにルールは改定され、防止のための方策が取られる。にもかかわらず、性懲りもなく人々はバブル経済に巻き込まれる。喉元過ぎれば熱さを忘れるとはよく言ったものである。しょっちゅう何かの事件が発生して、反省から様々な対策や予防を施せど、人は、過ちを、繰り返す

もうこれは、時間は常に未来に向かって流れており、それに伴い人々の記憶は薄れ、システムは老朽化し、法律は形骸化していく以上、不可避のようにすらみえる。我々にできることといえば、周りがどうなろうとも自分だけは同じ轍を踏まぬように歴史に学ぶことくらいしかないのかもしれない。それでもなお、どうしようもなく巻き込まれてしまうのだが。どうせ巻き込まれるのであれば、踊りゃな損損と、若干ヤケになっている今日このごろである。

次回:「大掃除」この地獄に終わりはあるのか。

中野(Hr. / 同情するなら金をくれ)

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課題図書

未来計画表(アンサイクロペディア)
アンサイクロペディアだけれども、冗談抜きで、コレだと思う。歴史を楽しむ計画表だ。

著者のチャールズ・マッケイが150年ほど前に上梓した『常軌を逸した集団妄想と群集の狂気』の一八五二年版の邦訳である。
民衆が何かに取りつかれ、それが恐ろしい妄想に変わり、やがて社会全体が理性を失っていった歴史上有名な事例を取り上げ、なぜ人は集団になると愚行に走るのかをジャーナリストの視点から解き明かした作品。
日本の1990年前後のバブル経済の中で起きた、いくつかの経済事件について深堀りされたルポタージュ。
メチャクチャじゃねぇか!そりゃ銀行も破綻するわ!

今週のリコメンド:ヘンデル

ベートーヴェン曰く。「昔の巨匠たちの中で、ヘンデルとバッハのみが天才であった」

とは言え、メサイアの『ハレルヤ』や、歌劇『リナルド』の『私を泣かせてください』とかを除けば、クラシック好きでもなければヘンデルってそんなに聴かないような気がして、リコメンドする次第である。たまにはクラシックを聴くのもええよ。



余談1:第2回逆噴射小説大賞に応募したら、2次選考突破した。やったぜ。皆様のおかげです。1次&2次審査突破作品はこちらから、拙作はこちらから。

余談2:軽装でバイクに乗って高速道路走ったら、案の定、超寒くて。何度挫けそうになったか。死ぬかと思った。防寒は大事だ。

余談3:忘年会のシーズンですが、皆様飲み過ぎには気をつけましょう。もし前後不覚になっても反吐を吐く場所はわきまえ、早々に退散しましょう。くれぐれも緊急搬送などされぬよう。

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