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先日、弊バンドの横笛担当大臣からキャンプのお誘いがあり、富士山麓へ行ってきた。彼は日本の遥か西に住んでいるのだが、それほどまでに、富士山というのは人を引き付ける魅力があるのだろうか。はたまた、ゆるキャン△の影響か。彼の心中は想像するしかないが、なんにせよ楽しく過ごせたの良しとす。
ジープに乗りし候
さて、キャンプをするとなるとどうしても道具がかさばりがちで、しかも今回は2人組での移動である。車を借りねば難しかろうと、カーシェアリングサービスを使って、Jeep Wranglerをレンタルした。オーナーさんはすげぇ親切だったよ。
Jeep Wrangler。いわゆる「ジープ」だ。デカくてパワフル、耐久性抜群でオフロードもなんのその。すべてのパーツが簡単に交換できるようになっている。質実剛健を地で行く名車のひとつだ。
とはいえ、借り物。河原や林道、ましてやガレ場なぞ行けるわけもなし。というか、キャンプに行くにしても、そのような道を通ることなど、現代日本においてほぼ皆無といえよう……。そういうわけで、メンテナンスの行き届いたアスファルト舗装の一般道・高速道路でドライブとしゃれこんだわけだ。
荷物は山ほど乗るし、トルクもばっちり。急坂もおそらく問題ないだろう。先に述べたように、メンテナンス性も素晴らしい。決して悪い車ではない。ネガを挙げるとすれば、日本の路地を走るには、いささか大きすぎるその車体。横風をモロに受けるデザイン。トルクに振ったギア比。いかにもアメリカンな車だった。
AT車とMT車のこと
さて、案の定というか、ご多分に漏れずというか、このジープもAT車だった。昨今では街中を行く車の大半はAT車、レンタカー屋で借りる2tトラックですらAT車。日本におけるMT車は一部の社用車や、ごくわずかに存在するマニア向けとなって、片隅で息をひそめている有様だ。
実際のところ、快適に移動することだけ考えればATだろう。アクセルを踏むと走り出す、マジで。ちょっと感動。渋滞が多く、既にATがデファクトスタンダードとなっている日本においてはわざわざMTをチョイスする理由は、あまり見当たらない。MTの方が安いとか、MTは機構がシンプルで壊れにくいとか、「ヨーロッパではMTが主流!日本は遅れてる!」という海外出羽守のご意見とか、色々あるけれど、MTを推す声は、どれも、苦しい。
しかし、今回のジープを含め、実家の車やらレンタカーやら、AT車に乗る度に思うのが「これでは人間がダメになる」。やることと言えば、周囲を確認し、アクセルペダルを踏み、ステアリングホイールを回し、ブレーキペダルを踏む。その他のことは全て車両任せ。
移動手段としてのクルマ、ということを考えればATに軍配が上がる。しかして、どうにも、自分の思い通りに走らせて運転を楽しみたい、となるとMTなのだ。3ペダルのさ。シンプルで分かりやすく、全ての操作が挙動とマッチし、クルマと一心同体となる、あの感覚。MTは、(いささか面倒だし、渋滞で辛いが)楽しい。
面倒なことに楽しみを見出す
シフトチェンジとか面倒じゃん…… 坂道発進とか緊張するじゃん…… ATあるんだからMTは無駄じゃん…… というあなた方に問いたい。人生から無駄なこと、面倒くさいこと、緊張することを取り去ったら、いったい何が残るというのか。下手をすれば、今すぐ死ぬべきだ、となりかねない。
見方によっては、生存とは墓場までの暇つぶしであり、不合理の塊である。ゆえに、我々は面倒臭いことをやっつけながら、必要な食事を撮り、睡眠をし、増殖しながら、なんとか毎日を生き延びている。それだけでも大変なのに、ゲームをしたり、絵を描いたり、本を読んだり、会話をしたり、音楽をしたり、生存に不可欠ではない娯楽を(時にはお金を払ってまで)追求している。
クルマのMT/AT論のみならず、そのような構造を持つ概念は多くある。酒、たばこ、ギャンブル、音楽、絵画、映画、料理、仕事、趣味、生きるべきか、死ぬべきか。
世の中、合理的にやっていくとなると、そりゃコンピュータとかでやった方がいい。公道全体が全て自動運転のクルマになったら、事故もめったに起きないだろうし、渋滞も大きく減るだろう。 DTMでなら超絶技巧の演奏はできる。合成された完全栄養ブロック食を採っていれば、健康は保たれるだろう。しかし、そこに体験する楽しさなり、喜びなりはあるかね?ということを問いたい。
あの男も、人はパンのみにて生きるにあらず、と言っている。俺の、そしてあなたの人生なのだから、せめて好きなものはマニュアルでやっていこうぜ、と思う今日この頃である。
今週のリコメンド
Penguin Cafe Orchestra
先週はCicadaを紹介したが、今も昔も、クラシックかつミニマルでポップなバンドは時々現れる。そういうわけで、前世紀に活躍した一大バンド、ペンギン・カフェ・オーケストラを紹介しよう。
イギリスの作曲家、ギタリストのサイモン・ジェフスを中心とした楽団で、1976年にブライアン・イーノ(『Ambient 1: Music for airports』でアンビエントというジャンルを作り上げた偉大なるハゲ)主催のレーベルから『ようこそペンギン・カフェへ』を発表しデビュー。1997年のサイモン・ジェフスが死去するまで活動は続いた。
晴れた休日とか、昼寝のバックミュージックとして流すと最高だ。1980年代、様々なメディアで使われるなどして、一世を風靡した(らしい)。なんか人とペンギンを足してシュールレアリスムで割ったような奇妙なジャケットも特徴的なので、知らない子はお父さんやお母さんに聞いてみてみよう。
2009年からはサイモン・ジャフスの実子のアーサー・ジェフスが主催、メンバー構成を一新した「ペンギン・カフェ」として再始動しているので、良かったらそっちも聴いてみてね。
余談1: 一般的なマニュアル主義、というと、慣例に乗っ取ったお役所仕事的なニュアンスがあるけれども、あれはあれで意味のあるものですよ。「ちょっと全然わかんないけど、とりあえずやってみました」とか、「あいつは気に入っているからヨシ、お前は顔が気に入らんからダメ」とか、困るでしょ? そりゃまあ、諸手を上げて賛成、とはいかないけれど、それは多数決で物事が決まる民主主義ってのと似たようなもんだよな。
余談2: 美味いタバコが吸いたいが、どれもこれもしっくりこない…… そういうわけで、最近は手巻に移行した。葉も紙もフィルターも、全て自ら取捨選択したものであるので、たとえ不味かったとしてもそれは俺が悪いと諦めもつくし、どうすればもっと自分好みになるのかという追究ができるので楽しい。これもまた、面倒だけど楽しいことの一つではあるよな、と思う。
余談3: ゴールデンウィークが終わりましたけれども、みなさまはいかがお過ごしでしたか?俺は最終日がお休みだったので、一人で灯台を見に行って、一人で写真撮って、一人で帰ってきましたよ。なに?まだ連休が終わってない?なんと。