グラフで理解する初見力など

いつもお世話になっております。あるいは、はじめまして。インプリメーレというバンドでホルンを吹いている中野と申します。さて、今回もやっていきましょう。

詩は音楽にならなかった言葉であり、音楽は言葉にならなかった詩である。

ヘルマン・ヘッセ
小説家、詩人

先日、次回のライブのための譜面を眺めていた。来年の事を言えば鬼が笑うとはよく言ったものである一方、大抵の物事の9割は準備段階で決まる。そういう信念のもと、石橋を破壊検査して回る俺からしてみれば準備は早いに越したことはないのである。そんな折、集中力が切れ、明後日の方向へ思考が行った際、ふと「初見である程度演奏できるかどうかって割と大切なのでは?」と思った次第である。そういうわけで、今日はちょっと真面目に初見演奏について書こうと思う。

中高生でも分かる初見力

中学生でも分かるように説明しよう。y=ax+bという方程式を考えてみて欲しい。yは総合的な演奏力、xは練習量か曲に費やした時間tと思ってくれればいい。aは難しいところだが… 才能とかセンス、楽典的な知識とかそういった各々の能力みたいなものだ。そして、bが初見力だ。

y = ax + b
x軸は適当な時間単位、
y軸は上手さだと思ってもらえればいい。
適当にパラメータを振ってみた。
緑線が初心者、青線が初級者、茶線が中級者、赤線が上級者を想定。

コンクールにおいて、楽器を始めて数年程度の中学生であっても上手に聴こえるのは、費やしているxが膨大だからだ。大抵は課題曲1曲と自由曲1曲だろう。春から夏の長い間、研鑽を重ねて、その総合的な演奏力を高めていく。

しかし、たとえばこれが練習時間をなかなか確保できない社会人バンドだったら?演奏曲目が15曲くらいあったら?1曲に費やすことのできるxはどんどん小さくなり、yはどんどん小さくなる。

故に、aとbの大きさが大切であることが分かるだろう。プロオケなどではほとんど練習がなくても、各人の能力aが高いためにクオリティの非常に高い演奏が可能になる。そして、初回の練習でも彼らはある程度仕上がっている。それは初見力bが高い事がひとつの理由としてあるのだろう。

初見力II

「そんな線形でクオリティが上がり続けるわけがないでしょ。というか、無限大って何よ」という方もおられることだろう。まったくもってその通りである。そこに気がついたあなた方は素直にすごい。気付かなかった人は、マルチ商法や壺や絵画に気をつけましょう。

もし、あなたに数学の知識があるのなら、ロジスティク方程式で語ったほうが早いかもしれない。ロジスティック方程式は、生物の個体数の変化の様子を表す数理モデルの一種で、ある単一種の生物が一定環境内で増殖するようなときに、その生物の個体数(個体群サイズ)の変動を予測できる。なんかグラフを見ていて、これだな、と思ったのでこれです。具体的には、

{\displaystyle {\frac {dN}{dt}}\ =rN\left(1-{\frac {N}{K}}\right)}

という微分方程式で表される。N は個体数、t は時間、dN/dt が個体数の増加率を意味する。r は内的自然増加率、K は環境収容力と呼ばれる定数である。個体数が増えて環境収容力に近づくほど、個体数増加率が減っていくというモデルになっている。

式の解(個体数と時間の関係)はS字型の曲線を描き、個体数は最終的には環境収容力の値に収束する。

{\displaystyle N={\frac {K}{1+(K/N_{0}-1)e^{-rt}}}}
ロジスティック曲線の例。
r = 1, K = 100, No = 1とした場合。

譜面を読んでアウトプットする、という行為を考えれば、rは中高生編でも述べた能力的なものaNoは初見力b、そしてKは想定するアウトプットイメージ、といったところだろうか。先日アラスカから中継されていたいさなさんのプリラジスピンオフでも、このKの重要性について語られていた気がする。

プロなんかは理想の演奏像Kを明確にしており、それが良い故にプロである。rは感覚として身につけていっているものだろう。しかも既に場数を踏んでおり、Noが大きいのでそこそこからスタートするので、いよいよ素人からすると意味不明な領域に入る。しかもそれで食い扶持を稼いでいるので、時間もかけられる。やがてアッパーなループに入り… おいしくて… つよくなる… それこそがプロのプロたる所以なのでは?

初見、その磨き方とコツ

では初見力はどのようにして磨くことができるのか。こりゃもう、筋トレみたいなもんで、使った能力が伸びていく、ように思う。基礎練習に終始して基礎力ばかりのばしても初見力は伸びないし、ガンガン新しい曲吹いて初見力ばかり伸ばしても、やっぱり基礎力を磨いている奴には太刀打ちできない。そもそも、目標のイメージがぼんやりしていると、なんかしっくりこない、とかなってくる。音楽って考えれば考えるほど、難しいもんですね。もっとフィールでやればいいのに、と我ながら思うけれども、これは麻雀のデジタル vs. オカルトだと思ってもらえればいい。

初見のコツとしては、俯瞰、流れ、先読みの3つが大事だと感じる。

まずは俯瞰からいこう。やってしまいがちなのは、全体を見ずに頭から練習し始めてしまうことだろう。まさに木を見て森を見ず。やはり、全体としてどういう曲なのか、作曲家は何をイメージしてこの曲を書いたのか(だいたいタイトル見れば分かる)、全体的な雰囲気はどういうものなのか、テンポや調の変化はどこか、といったことを俯瞰することは大事だと思う。そして、技量的にヤバそうなところがあれば、事前にそこだけピックアップしてやれば、そこそこどうにかなるのでは?

次に流れ。これは現在進行形で演奏中の場合だ。あるフレーズを演奏しているとする。慣れてくれば、「だいたいこういう流れで来たんだったら、次はこうくるだろう」という感覚が掴めてくるはずだ。ここで言う流れは、音楽で言えばコード進行が顕著だろう。だが、これをよく読み違えてうっかりミストーンするんだな。一つ一つの音を一個一個鳴らしていく、というよりも流れに音を載せていくことだ。某北斗真拳継承者も言っている。「激流に逆らえばのみこまれる。むしろ激流に身をまかせ同化する。激流を制するは静水」

最後に、先読み。これも現在進行形での部分だ。初見である以上、今鳴らしている音を見ていては次の音が分からない。常に次の音、できればその次の小節、もっとできるなら2小節先を。そして一音一音ではなく、フレーズで捉えられればそれに越したことはない。脳の揮発性メモリをフル活動させてぶつかっていけ。

ローマは一日してならず、だ。一歩ずつ、つよくなりましょう。

次回 虚無の暗黒との戦い

中野(Hr. / 平たい顔族)

参考文献

若宮 由美 (2013): 音楽表現力の育成:初見奏を通じた学習内容に関する考察
帝京大学教育学部紀要 1:97-109
URL(2019年11月21日閲覧)

wikipedia: ロジスティック方程式
URL(2019年11月21日閲覧)
※レポートとかでwikipediaを使うのは怒られが発生するのでやめましょうね。

今週のリコメンド: Mouse On The Keys

キーボード×2、ドラム×1というちょっと異色なインストゥルメンタルバンド。でもそのサウンドは現代的でメチャクチャかっこいい。スムースなところもあったり、ガッツリエッジの効いた部分もあったり。コンクリート打ちっぱなしな感じのビジュアルも相まって、超クール。



余談1: KIRINJIのニュー・アルバム『Cherish』が出た。先行シングルの feat. 鎮座DOPENESSの楽曲もあり、しっかり聴いていこうと思う。サラッと流し聴いた感じだと、いよいよポップで時代感あるなぁ、と思う。

余談2: なんかめっちゃ急に時間が動き出してめっちゃしんどい。来週の原稿落としたら虚無の暗黒に負けたと思って欲しい。祗園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり 娑羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす おごれる人も久しからず 唯春の夜の夢のごとし たけき者も遂にはほろびぬ 偏に風の前の塵に同じ

余談3: TRUE DETECTIVEの第2シーズンを観た。何か、第1シーズンに比べると評判悪いらしいけど、IMDbがどうした、って感じだ。俺はこれは良いと思った。これはサスペンスではなく人間ドラマだ。

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