雉も鳴かずば撃たれまい

鳥のように自由に空を飛びたいなんて言うのは勝手だけど、鳥が飛ぶために何万回翼を動かしているか、よく見てごらん。

北野武
(タレント・映画監督・俳優・コメディアン・漫才師)

先日、明石高専の定期演奏会にちょっとだけ参加してきた。あいにく練習には参加できなかったので、ぶっつけ本番だったわけだが、なんとかなって良かったです。なんとかなってたよな? おそらく、演奏会報告は誰かが書いてくれるはずなので、そちらに任せよう。(演奏会報告:完)

ところで、イイ男は準備を怠らない。常にリスクを織り込んで行動する。電車が遅延する可能性、路上でダニー・トレホに襲われる可能性、水路に潜む河童に尻子玉を取られる可能性、突然心臓が止まる可能性、四十日間降り続く雨に大地が沈む可能性、7人の天使がラッパを吹く可能性等だ。そういうわけで、優れたリスクマネジメントの結果、集合時間より大幅に早く明石市立西部市民会館に到着してしまった。

集合時間までしばらくあるので、道の反対側の喫茶店で過ごすことにした。いかにも古き良き純喫茶、という感じだ。「おじいちゃんが新聞を読んでいるなぁ」煙草を一口、運ばれてきたコーヒーを一口。モーニングサービスの茹で卵を食べる。「黄身の外側の灰色の物質は何だったっけ?」煙草を一口、コーヒーを一口。モーニングサービスのドーナッツを食べる。「池が良い感じだが、何でこの地域にはこんなにため池が多いんだ?」煙草を一口、コーヒーを一口。「鳥の写真が多いな。この辺りは鳥が多そうだな」煙草を一口、コーヒーを一口。会計。ごちそうさま。

その後、指揮者の迎さんから、『チコちゃんに叱られる』のネタを聞く。「鳥は恐竜、恐竜は鳥」とのこと。北大の小林快次先生が回答者で出演していたそうだ。俺がいざというときのためにストックしておいたネタがこんな形で世間に出回ってしまうとは。なんということだ。これでは俺がその話を観て書いたミーハーみたいになってしまうではないか。チコちゃん許すまじ。

ということはさておき、NHKの後追いにはなるが鳥の話をしよう。

とある日本の鳥類学者

面白いエッセイに魅せられてから、しばらくになる。古くは椎名誠や原田宗典。少し前で乙一や森見登美彦。ブロガーだと肉欲企画さんやフミコフミオさん。人の良さそうな、弱さの少し感じる、しかしながら破天荒でユーモアのある愛すべき文。そんなラインナップに、最近、一人増えた。川上和人先生だ。

川上和人先生。森林総合研究所で主任研究員を務める、高槻市出身でカフェインと美女に滅法弱い鳥類学者だ。愛車は黒のドカティ・ムルティストラーダ。その筋では、小笠原諸島に住む鳥の進化と保護の専門家として有名だそうな。一般には、毎週楽しみにしているラジオ番組『子ども科学電話相談』における鳥の先生として有名である。先日テレビに出演していた小林先生とは、このラジオ番組で「恐竜は鳥だ」「鳥は恐竜だ」と言い争いをしていたり、有望な少年少女をその道に誘おうと勧誘し合ったり、互いの書籍レビューを書いたりとナイスコンビである。

文章が最高に面白い。頻繁に出てくる美女。比喩にこっそりと仕込まれたネタ。引用に感じる昭和臭(UMA、ウルトラマン、ガンダム、その他諸々)。しかも、それらを使った説明がびっくりするほど分かりやすいのだ。その文章の魅力に引き付けられ、著作をどんどん読み進めているうちに、すっかり鳥にまつわるアレコレについて知識を得た次第である。

恐竜と島に詳しくなった

当然だが、鳥について詳しくなった。アカアシカツオドリの学名がスラ・スラであることや、カササギの学名がピカ・ピカであること(ニシゴリラの学名がゴリラ・ゴリラみたいな)。飛翔を常とする鳥の筋肉は赤いこと(そういえば鶏は白いな)。鳥は空を飛ぶために、航空機エンジニアもビックリの軽量化を図り、ひたすら筋肉体操をして胸筋を鍛え、超便利な羽毛を獲得したこと。飛ぶには膨大なエネルギーが必要なので、必要がなければ飛ばず、捕食者がいなければいずれ飛ばなくなること。鳥の脚の曲がっている(逆関節のように見える)部分はカカトであること。やげん軟骨について。実利の小さい学問の存在理由は、人類の知的好奇心であること。バイクと鳥の共通点。研究者はストーカーで露出狂なだけではやっていけず、若干マゾヒストであることも要件の一つであること。

恐竜についても詳しくなった。獣脚類と竜脚類の違い。最近の恐竜研究の成果。鳥は恐竜であり、恐竜は鳥である理由。羽毛恐竜や始祖鳥について。鳥から学ぶ恐竜の生態や色。行動は形態を進化させるが、行動は必ずしも形態に束縛されないこと。愛とは、信じることと許すこと。

島についても詳しくなった。島の定義。大陸島と海洋島の違い。コンビニがある島は殆どないということ。島では独特の生態系が生じやすいことと、その理由。ガンバよろしく海という障壁を超えて島へやって来る動植物について。生態系の破壊について(あるいは恐るべきヤギやネズミ)。専門分野について書くことほどしんどいことはないこと。

一言に鳥といっても、恐竜や昆虫や魚、木々や草花といった生物学的要素から、土地や天候といった地学的要素、空力や重力といった物理学的要素まで、 その関連分野は広く、膨大である。一つのことを知ろうとすれば、他の事も芋づる式に繋がってくる。読書においては、これが楽しくて仕方ない。

自然に、美味しく、楽しく。

世間では、専門分野と幅広い知見を持ち合わせたT型人材が求められているようだ。専門分野を持たず幅広く薄い知識しか持たない人材は、ほかの人材との優位性を保つことが難しいため、生き残れない。一方、いくら自分の領域についての深くて膨大な専門知識を持っていたとしても、固執しすぎてしまうと他の分野に展開することができず、専門分野の代替技術が現れた時に価値を失い、生き残れない。多様性が求められる昨今、ビジネスパーソンは、専門家としてのI型からT型への進化が求められている…

まったくもって、クソッタレだ。クソオブクソだ。

人材かくあるべし、という風説に流されそのような人材になることを目的としては意味がない。専門分野は専門に携わっているうちに身についてくるものであるし、幅広い知見は好奇心を持って様々な事に取り組んでいれば自ずと身についてくるものである。

我々は無知である。知識の獲得は目的ではなく手段である。 無知であることを自覚し、新たに知識を得るために前提となる知識を積み上げていけば、その過程で複数の分野が有機的に結びつき、更に無知の領域が広がる。宇宙は広大であり、我々は全てを知ること無くいずれ滅びるだろう。ともなれば結局、勉強を楽しむこと、これが一番大切なことである。

【次回】かどわかされて

中野(Hr. / ―型人材)

参考文献

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (川上和人 著)
鳥から恐竜へのアプローチ。おもしれー。
鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。 (川上和人 著)
鳥にまつわるエトセトラ。おもしれー。
そもそも島に進化あり (川上和人 著)
島島鳥島島。おもしれー。
鳥肉以上鳥学未満 (川上和人 著)
鶏。食卓に並ぶのは進化の成果だ。
おもしれー。
恐竜まみれ 発掘現場は今日も命がけ (小林快次 著)
アラスカで熊に襲われそうになったり、モンゴルで濁流に飲まれそうになったりする。
恐竜も、おもしれー。

今週のリコメンド:んoon

んoon』と書いて「ふーん」と読む。ボーカル、ベース、キーボード、ドラム、ハープで構成されたバンド。相当ジャンルレスな感じで、非常に良い。PVはバグった感じ。

直近では、9月21日(土)に大阪は堺で開催される全感覚祭 19に出演予定。10月8日(火)にはLIQUIDROOM 15th ANNIVERSARYで死ぬほどかっこいいカッコいいバンドである『toe』と対バン(前座ではなく)とのこと。今後も目が離せません。

Tokyo Family Restaurant (1st EP『Freeway』より)
コレ聴いた時に電流走ったんだよ。マジでマジで。
Freeway (1st EP『Freeway』より)
1st EP タイトル曲。Oh… Crazy PV.
Gum (2nd EP 『Body』より)
すごい心地良い。フロー感あるな?

余談1:ササミには日頃の食事でお世話になっている。鶏に感謝だ。

余談2:焼き鳥だとヤゲンと白レバーが好き。

余談3:マジでやる気が起きず、毎朝死にそうです。 TA☆SU☆KE☆TE!


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